九州大学大学院薬学研究院
環境調和創薬化学分野

【論文】重水素化カルボン酸の効率的な合成法を開発(Nat. Synth. 2022)

2022年09月10日

 
 

Ternary catalytic α-deuteration of carboxylic acids
Tsukushi Tanaka, Yunosuke Koga, Yusaku Honda, Akito Tsuruta, Naoya Matsunaga, Satoru Koyanagi, Shigehiro Ohdo, Ryo Yazaki, Takashi Ohshima
Nat. Synth. 2022, 1, 824–830. DOI: 10.1038/s44160-022-00139-9


 Nat. Synth.早くも2報目。HP担当の同期であるつくしくん(2022年博士卒)の論文がついにpublishされました。つくしくんの筆頭論文は3報目、ACS Catal. → JACS → Nat. Synth. と素晴らしい業績です。共著の古賀くん(M2)、本多くん(M1)は共に2報目の論文となりました。また、本研究は九州大学大学院薬学研究院薬剤学分野の大戸先生、同グローカルヘルスケア分野の小柳先生、鶴田先生、同薬物動態学分野の松永先生との共同研究です。
 今回も先生方と学生からコメントをいただきました。卒業生のつくしくんも素晴らしいコメントを送ってくれたので掲載します。

● 大嶋先生
 通常強塩基が必要とされるカルボン酸のエノラート形成を、ありふれた三つの試薬を触媒量加えただけで達成できたところが画期的だと思っています。触媒開発は、どんどん凝った触媒系に流れ、実用性から離れる傾向がありますが、最終的にシンプルな(でも誰も気が付かなかった)触媒系にたどり着けたことをとても嬉しく思っています。田中くんを中心に、諦めずに努力し続けてくれた共著者の学生に感謝です!

● 矢崎先生
 カルボン酸の触媒的な重水素化反応の開発に成功しました。筆頭著者の田中くんの才能あふれる論文となっており、田中くんでないと見つけられない、とてもきれいな触媒系となっています。重水素化カルボン酸を、反応後にエステルなどに変換せずに単離する条件を確立しているところも実用性が高いポイントで、重水素化合物の利用拡大に貢献できればと思います。また、共同研究として鶴田先生、松永先生、小柳先生、大戸先生に代謝安定性試験をしていただいたことで、今回の合成法の有用性を示すことができました。

● 田中津久志くん
 先行研究である 鉄とアルカリ金属によるカルボン酸のエノラート化のテーマが終わりを迎える頃、「どうやったらもっと効率的にカルボン酸をエノラート化できるんだろう・・・」と毎日20時間くらい考えていました。考えれば考えるほど抜け出せなくなる沼にハマっていました。でも、この苦しみこそが研究です。

 そんなとき、ルーティーンで何気なく流し見していた新着論文のグラフィックアブストに酸無水物の構造が書かれていました。
「ん・・・これだ!!!」
そう、この電流こそが研究です。

 求電子剤として重水素を選択し、DMAPを加えてみたら反応が加速されました。最適化、変換反応、多段階合成は楽しみながらデータを取ることができました。基質一般性は苦しかったです。しかし、研究と論文化はまた別の話です。自分一人の力では、今回の研究を論文として世に出すことは決してできなかったと思います。本テーマに関わってくださった関係者の皆様に、この場を借りて厚く御礼申し上げます。

 6年間の研究室生活を振り返ってみれば、研究のことだけでなく様々なことを学ぶことができました。本当に色々なことを経験し、周りに迷惑をかけたりもしましたが、それでも最後まで立っていた研究室時代の自分自身に感謝いたします。

● 古賀くん
 僅かばかりですが本研究に関わることができ大変嬉しく思います。田中先輩には本研究に関することのみならず、非常に多くのことを学ばせて頂きました。本当にありがとうございました。

● 本多くん
 本研究に関わることで、様々な経験を積むことができました。このような機会をいただけたことを嬉しく思います。ありがとうございました。


※本研究について、九州大学よりプレスリリースされました( 九州大学
※薬学部のホームページでも研究が紹介されました( 九州大学薬学部) 
※学術変革領域研究A「デジタル有機合成」のホームページでも研究が紹介されました( デジタル有機合成